マクロ経済スライドって何?導入されるとどうなるの?

マクロ経済スライドって何?導入されるとどうなるの?

それいゆ通信076号

関与先の皆さま

 日に日に温かくなり、お花見のシーズンはあっという間に終わってしまいましたね。この春の陽気の中、関与先の皆様はいかがお過ごしでしょうか。私はこの時期になると、32年越しの大学卒業となった法学部同期生(同年卒業)の北朝鮮拉致被害者・蓮池薫さんの言葉を思い出します。「法律が世界をみるひとつの視点になった。」そして、法律の及ばない拉致の被害者であるにもかかわらず、「法律は自分の人生に生かすことができる。」といった彼の言葉は非常に重く、法律とは何かを改めて考えされられる言葉として今も覚えています。それを重く受け止め、入所から半年を経ましたので、私は今春の目標を改めて法律と税法を学ぶ春にしようと思います。それでは、事務所通信平成27年5月号とともにそれいゆ通信076号をお届けします。

 今回の事務所通信は、企業法務にとって重要な株主総会等の議事録について、その必要性と作成の注意点について解説しています。税務調査や万が一の裁判で必要となる場合もありますが、最近当事務所の関与先様で定款変更をし、実際に定款変更の審議・決議が行われたかどうかの確認として株主総会の議事録を税務署から求められたというケースがありました。中小企業であっても、株主総会等の議事録は会社法318条、369条で作成・保存の義務があります。また、記載内容の不備や保存の義務を怠った場合は、会社法976条により罰則が科される場合もあります。作成・保存あたってご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

 今回のそれいゆ通信では、今年度から変わった身近な制度として公的年金の「マクロ経済スライド」を取り上げたいと思います。そもそも公的年金は、現役世代の納めた保険料がすぐにその時点の高齢者に年金として支給される賦課方式が基本です。しかし、少子高齢化で受給者が増える一方、現役世代が減りつつあるため財政が苦しくなっています。そこで、政府は2004年に年金財政を立て直すための改革を行いました。その内容は、保険料を2017年まで段階的に引き上げて、以後は一定の水準に保つこと。それでも財源は限られていますから、財源の範囲内で給付を行うため、「社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」というマクロ でみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する制度を導入しました。この制度が「マクロ経済スライド」と呼ばれるものです。
 今回なぜこのマクロ経済スライドを取り上げたかというと、4月から値上げする商品やサービスが多いはずなのに、この制度が導入されると年金給付額が削られるからです。正確には、給付額の増加分が削られるからです。本来公的年金は、物価や賃金が上昇すれば、原則としてその上昇率に合わせて増えます。しかし、マクロ経済スライドが実施されると年1%程度の「調整率」を差し引いた率でしか増額しなくなります。もともとマクロ経済スライドは物価と賃金が上がることを前提としているため、今までの日本経済のデフレ状態により10年以上も実施されず、結果的に年金額が高止まりして財政悪化が進みました。そこで、最近のアベノミクスや消費税率引き上げなどの影響により物価と賃金が上昇したため、今年度から実施となりました。
 このマクロ経済スライド、厚労省は2043年頃まで続ける必要があるとしており、現在36歳前後の現役世代が年金受給者になる頃まで「調整率」の影響を受けるといわれています。また、国民年金保険料は340円増えて、15,590円となります。では、既に年金受給が始まった方の年金受給額はどうなるのでしょうか。今年度の受給額は、国民年金満額受給者は608円増えて、65,008円に、厚生年金受給者で夫婦2人の標準世帯は2,441円増えて、221,507円になります。これは今年度の調整率0.9%を差し引いた率での金額です。一見すると金額は増えていますが、調整率を差し引かれていますので、実質的な価値は目減りしています。
 消費税増税が見送られ、日経平均は2万円目前となり景気は回復しているといわれているはずなのに、年金保険料は上昇し、年金受給額は削られ、物価は上昇。これらは景気回復の代償ということで片づけられたくない問題です。私は今年度の春を学びの春としますが、新たな視点で年金制度や景気回復というものを考える春にするのもいいかもしれませんね。(T.N記)